HAND & SOUL

ペリグーの標識

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テレビのBSチャンネルが増えて、各地への旅行番組を選んで観ることができるようになりました。
海外へ出ることがめっきり少なくなったこの頃の楽しみのひとつです。
そんな番組を観て感じるのは、欧米とくにヨーロッパの街の美しさです。この現代によくもこんなに美しい景観を保っていられるものだと感心することがしばしばです。水も緑も豊かな日本の自然は世界に屈指ものですが、街が美いと感じることは極まれです。
人の生活が街を美しくするとはどういうことなのか、街を美しくする人の暮らし方というのがあるのだろうか、長い間この答えを見付けたいと思っていました。ところがこんな疑問に目からウロコの映像に出会ったのです。
それは先日観た「ペリグー」というフランス南部のボルドー近郊の街を探訪する番組でした。この地はフォアグラの産地としてグルメにはよく知られているようですが、近くにカトリックの聖地があることで巡礼の街道町として古い歴史を保つ観光地でもあります。
そんな町中をカメラが探っていくなかで映し出したのが小路地の石畳です。中央の敷き詰めた石の間に小さなホタテ貝の形のレリーフが埋め込まれてます(写真)。その金属のレリーフは長年にわたって人馬や車に踏まれ、擦られツヤツヤしていて、地面に埋め込まれた街のアクセサリーのようですが、それはここが巡礼路であることを示す道路標識なのです。
えッこれが道路標識!なんと美しい道路標識なのだろう!

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一般的に道路標識といえばまずは見やすく、老人でも子どもでも間違いのないように解り易くなければならないとされています。自動車道路ともなると高速の移動中にも視認できるようにと相当の大きなものになります。誤解のないようにとの老婆心か親切心からか、国で設置するもの、市で設置するもの、私製のものも混ざって各種の標識が立ち並びます。その上サイン類としては、さらにその何十倍、何百倍の一般の商業看板がこれ見よがしに街中に氾濫しているのですから、これらがの日本の街の姿を形づくっているといっても大げさでないくらいです。
それに比してペリグーの貝型の標識のなんと慎ましやかなことか。これでは見つけにくいとか、解るだろうか?といった批判はいろいろできますが、これが何百年もにわたって実用されてきたという事実はとても重いと思うのです。

そもそも標識やサインというものは、その場所、その道に不案内の人のためのもので、そこで生活している人にとって必ずしも必要なものではありません。言い換えると、人は常にたまたまにそこを訪れるよそ者のために設けられた標識類によって、古来から存在しているその地の景観を汚されるという皮肉のなかで生きているということでもあるのです。
ペリグーの貝型標識にはこのような皮肉を寄せつけない古人の英知の存在を感じますし、何でも解り易ければよい安全が第一といった短絡的な価値基準を超えた人の知的能力への信頼、先人の歩みを大切にするこころ、そしてなによりも街の美しさへの敬意を感じます。考えてみると日本でも昔は一里塚や、家の入り口に石を一つ置いて立ち入り禁止の印にするといった周囲の環境に美しく溶け込む標識のアイディアがありました。
細かくこころを砕いたり、頭や時間や手間をかけるより簡単で解り易い方がよいとする態度が、識字率も教育程度も世界トップレベルの日本で大手を振っているというのは、もう一つの皮肉というよりほかありません。
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by love-all-life | 2012-01-13 17:04 | 時事・社会 | Comments(0)