HAND & SOUL

コンピュータ vs 人間

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5月11日付の朝日新聞に掲載された、永世棋聖・米長邦雄さんの「最善手を指したから敗れた」という記事はとても面白く読みました。
米長さんが1月に最強とされたコンピュータ将棋ソフトと対戦して敗れた経緯と彼の反省を綴った記事です。

将棋というものは、一つひとつの局面で「これしかない」という最善の手を見つける、いわば「盤上の真実」を追求する営みであると子供のころからずーっと思ってきた米長さんですが、最善手をぶつけ合ったら勝てない相手が現れた。それがコンピュータだということを思い知ったのです。人間がスポーツカーと競争するようなものだと彼は言います。
敗戦後3日間は、勝敗の分け目となった局面を思い返して眠れなかったそうです。
コンピュータは、過去の何万局ものデータを蓄え、1秒に最大1800万手を読みます。米長さん自身が忘れてしまった棋譜さえ知っていて、「米長さんはこういうとき、こう考えるでしょ?」とこちらの手を見抜いているかのようなのです。
そこで米長さんは対策を考えます。その対策とは「最善の手はとらない」ということです。通常ならあり得ない手をわざととり続けます。するとコンピュータは「米長さんの陣形は変な恰好だな」と混乱して乱れてきます。ところが我慢に我慢を重ねていた米長さんはついにイライラしてきて、「ここいらで決着をつけるぞ」と最善の手を指してしまいます。それが痛恨の一手、「スポーツカーと競争しちゃったわけです」と悔しがります。

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人間がコンピュータをもっと研究すれば、人間が完全に負けるのはまだ先だろうが、コンピュータが棋士を抜きさってしまうことがあるとすれば、棋士のデータを参考にしなくなったときだろうと米長さんさんはみています。
しかし棋士が脳から汗をかくように苦悩しながら勝負に挑む姿が感動を呼ぶのであって、そんな人間の姿を美しいと思ってくれる世の中であり続けて欲しいというのが米長さんの願いです。

この話をジイジから聞いたバアバが「つまりはテニスでどんな上級者も、初心者のフレームショットは受けられないということよね」と言いました。
米長さんを初心者に例えるのは失礼というものですが、人間が産み出したコンピュータが人間を打ち負かす、このSFの世界が現実になろうとしているのを、人間のなかでも最上質の頭脳をもった人の口からきくのはどこかつらい気がします。しかし米長さんも記事で結んでいるように、人がスポーツや種々の勝負に熱くなるのは、たんに勝つ負けるの結果だけではなくて、そこに至る過程で展開される心のドラマに興奮したり感動したりできるからでしょう。この精神性こそ人間の聖域としていつまでも誇りにしたいものです。


写真(下):将棋ソフトと対局する米長邦雄元名人。樫山晃生氏撮影
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by love-all-life | 2012-05-14 09:11 | 時事・社会 | Comments(0)