HAND & SOUL

ビーズは語る

e0153357_21161637.jpg










小学5年の孫娘がなかなか本を読まないので,誰もが子供の頃読んでいつまでも忘れない、いわゆる名作といわれるお話くらいは知っておいで欲しいと、図書館からD・デフォーの「ロビンソン・クルーソー」を借りて来ました。
果たして女の子にどうかなという気持ちもあって、借りて来た本のはしがきやあとがきを読んでいるうちに、つい興味をそそられて読み始めてしまいました。なにせこちらが読んだのは大昔、ロビンソン・クルーソーといえば絶海の孤島での文明人のサバイバル物語りというイメージだけが残っていますが、ロビンソンがそこに至る経緯についてほとんど記憶にありません。ちょっとそのことに触れてみます。

ロビンソン・クルーソーは1632年、イギリスのヨーク市の裕福な家庭に生まれました。貿易で財を成した父親が希望する弁護士にでもなっていたら安楽な生涯が保証されていたのに、子供の頃から世界中を放浪してみたいという考えにとりつかれていて、親の熱心な説得にもかかわらず、家出をして友だちの父親の貿易船に潜り込みます。嵐に遭ったり、海賊に襲われて奴隷として売り飛ばされ命からがら脱出したりして、我がまましたことを後悔したりするのですが、船乗りになりたいという止み難い想いから再び三たびと航海に関わるうちに、貿易船の船長として奴隷の売買に手を染めます。そして南米からアフリカへの航海中に大嵐で遭難し、ただ一人生き残って孤島に流れ着くということになるわけです。
e0153357_2123671.jpg

こんなロビンソン・クルーソーの生い立ちを持ち出したのは、文中に彼がアフリカで商品としての奴隷を得ようと持ち込む品目の筆頭にビーズが挙げられていることを発見したからなのです。
というのも、つい先日観た葉山の神奈川県立近代美術館でいま開催されている「ビーズ・イン・アフリカ」の強烈な印象と、ロビンソン・クルーソーの話が頭の中でスパークしたように感じました。
そうか、ロビンソンのようなヨーロッパの貿易商たちが持ち込んだビーズや銃を得たアフリカの部族の支配者は、その近代武器を使って周辺部族を征圧し捕えて奴隷として売りはらい、自らはビーズで身辺を飾ったというわけです。売られた奴隷は主に南米のさとうきびプランテーションの労働力として酷使され、生産された砂糖がヨーロッパに運ばれ、当時流行となっていた喫茶に欠かせない品としてもてはやされたのです。いあゆる三角貿易です。

e0153357_21235378.jpg








さて、葉山の「ビーズ・イン・アフリカ」は国立民族学博物館コレクションのアフリカ各地のビーズ工芸品を一堂に集めた必見の展示です。首飾り、帽子、衣裳、人形、仮面などに施された多種多様なビーズによる創意工夫、思いもよらない色の取り合わせ、点の集合が生み出すパターンのパノラマは、飾るだけではなく呪術や儀式も含めて人類が「美」といかに深く付き合ってきたかを再確認させられます。
使われているビーズの多くが奴隷貿易を介してベネチアなどヨーロッパからの輸入ガラスビーズであることを「ロビンソン・クルーソー」を再読して知ったいま振り返ってみると、緻密な美のなかに権威、支配、執念、謀略といった影のイメージが含まれているのを感じないわけにはいきませんが、それらを全部含めて「人間と美」の歴史について考えるよい機会あたえてくれた展示でした。
e0153357_21243661.jpg

[PR]
by love-all-life | 2012-09-05 21:24 | 文芸・アート | Comments(0)