HAND & SOUL

偶像の姿

e0153357_2032192.jpg






スペインでキリスト像の壁画が修復されたらお猿さんのようになってしまったというので、「史上最悪の修復劇」としていま世界中で話題になっています。ことの経緯は以下のようです。

スペイン東北部のポルハ市の教会の壁に19世紀末に画家エリアス・ガルシア・マルティネスによって描かれたキリスト像「Ecce Homo(この人を見よ)」があります。この壁画の劣化がすすんで、あちこちはげ落ちてしまったのを、地元の信者であるセシリア・ヒメネスさんという80歳のおばあさんが「私がやらなくちゃ!」と教会の許可を得て修復したら、結果はご覧のような原画とは似ても似つかぬキリストになってしまって大騒ぎになりました。

e0153357_1826093.jpg













左が修復前、右が修復後です。(上の写真は傷む前の壁画です)

当初彼女は衣装の部分を修復していたようですが、どうも画家を自認する彼女の創作意欲が修復作業の一線を越えて「私のキリスト様」を描いてしまったもののようです。
教会には苦情が殺到し、市も原状回復に動きだしたところ、意外にもこの壁画の事件が報道されるや話題の絵を一目見ようと、週末には数千人もが殺到する騒ぎになり、そのうちに修復された壁画に人気がでて「元に戻さないで!」と、2万人近くの嘆願書が集まっただけでなく、ネット上でも嘆願活動がはじまり、8月末で1万8千人の署名が集まったというのです。さらに現地ではグッズ販売など壁画フィーバーへの便乗商売も始まるという騒動になっているということです。

古い教会のこのような造作物は文化財として大切に保存されるべきという立場からすればセシリアお婆ちゃんの行為は暴挙以外の何ものでもありませんが、教会員であるセシリアさんにしてみれば、彼女の敬虔な信仰心の支えである貴重な偶像がみすぼらしくなっていく姿を見るに忍びないと、渾身の力を振り絞ったものを、ただ責めるだけでよいものだろうかという気持がしないでもありません。というのも教会は美術館である前になんといっても信仰を育む場なのですから。

そもそもイエス・キリストはどんな姿だったのかということになると、一般的には、色白で、痩せて、長髪の整った顔立ちで、慈悲深く幾分悲し気な西欧人のイメージが思い浮かびますが、写真も肖像画も存在しないわけですから、そういったキリスト像は聖書の記述をもとに、主に中世のヨーロッパの画家たちが創り出したイメージに過ぎません。

e0153357_18271887.jpg












ところで、手許にこれがキリストの実像という顔があります。これは2000年前のユダヤ人の頭骸骨や、3世紀に描かれたユダヤ人のフレスコ画を参考にコンピュータで再現されたキリストの顔だというもので、英国BBC放送のドキュメント番組「神の息子」のためにつくったものだということです。
ずいぶん既製のイメージと異なった、信仰の対象としてはどこか粗野で素朴過ぎる感じがしないではありません。
う〜ん、でもこのキリスト、どこかセシリアお婆ちゃんのキリストに似てると思いません?

所詮偶像というものは崇めるもののこころが生み出すイメージの姿なのです。だから偶像の姿がどんなカタチになったとしてもそれは間違いということはないはずです。とは言いながらそのイメージが新たな信仰を育んでいくのですから、たかが偶像、されど偶像ということでしょうか。
[PR]
by love-all-life | 2012-09-12 20:14 | 文芸・アート | Comments(0)