HAND & SOUL

HAND & SOUL「モノ」がたり 97 <アナログは永遠なり>

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ご近所に住む長年の友人Iさんから、「おふくろが使っていた古いシンガーミシンがあるんだけど、お宅で要るならもらってくれる?」と話がありました。おばあさまの代からI家で使い継がれてきた年代ものとのことです。
「いります、いります」と二つ返事で有り難く頂戴することにしました。というのも、以前に古いシンガーミシンの脚でガーデンテーブルを作って好評だったことが頭にあったからです。

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いただいたミシンを家に運び上げて見ると、年代ものらしく百戦錬磨のエイジングがかかったなかなかの貫禄です。
上下の車輪を繋ぐベルトが切れている以外はさしたる損傷は見当たりません。
ならば、解体してモノづくりの素材とする前に、ミシンとしてのお付き合いがどこまでできるか、やれるとこまでやってみることにしました。

まずは、ベルトを新調して機械の動き具合をみてみようと、最寄りのシンガーミシンの取扱店に写真を撮ってもっていったところ、「この手のネット模様の脚のものはアンティック愛好家に人気の機種なんですよ」と言うではありませんか。
シリアル番号「Y1326328」を手がかりにWikipediaで素性調べをしてみたところ、次のようなことが分かりました。

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このミシンは1923年にスコットランド/クライドバンク工場で製造された約86万台のシンガーミシンのひとつであること。この年にはアメリカ、ニュージャージ州/エリザベス工場でも84万台が製造されたことが資料から分かるので、おそらくシンガーミシンの製造が最も盛んな時期のものと考えられます。つまり、知る人には昔懐かしいシンガーミシンの最も典型的なモデルのひとつなのです。
1923年生まれとすると、今年89歳、この世での大先輩です。1923年といえば、大正12年9月1日の関東大震災の年です。
シリアルナンバーからみて、この年の後期の製造とみられるので、ちょうど日本が大災害に喘いでいる時期にスコットランドで生まれ、復興の鎚音高い日本へやって来たものと思われます。
震災後およそ9万台のミシンが日本に輸入されているとのことですから、壊滅した首都圏の復興に呼応して進んだ近代化の流れのなかで、この種のシンガーミシンは日本人の「衣」が和装から洋服へと転換するのを大いに後押ししたのに違いありません。
「相手を知ることが仲良くなる秘訣」の通り、だんだんこのミシンに愛着が湧いてきて、念入りにクリーンアップに取りかかりました。出てくるホコリも年代もののアンチックと思うと、なんだかおろそかに扱いかねて、丁重に塵取りで掬いとってゴミ箱にうやうやしく納めるという感じになります。

このミシンがわが家にやってきて面白い発見がありました。小5の孫娘と、中1の孫息子が「わーッ、かっこいい!」とミシンに取り付いて離れないのです。
ペダルを踏む力加減に応じて車輪の回転速度が変化する(この当たり前の)ことに感動していますす。鉛筆ひとつ削るのも鉛筆削り器を使うよう学校から指導されて育った彼らデジタル世代の体内にも、手加減とか塩梅によってしか得られない感触を快感と感じるDNAが組み込まれているらしいのです。
「やっぱり、人間の道具はこうでなくちゃ」と、したり顔のジイジ、日頃のデジタル機器での肩身の狭さを忘れて俄然元気なバアバ、母親の威信にかけてミシンの解説をするママ、ただただ夢中にミシンにしがみつく孫娘。三世代の女性を惹きつけて離さない吸引力は、さすが名器というべきでしょうか。

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by love-all-life | 2012-10-13 21:48 | 「モノ」がたり | Comments(0)