HAND & SOUL

卵の悲哀

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卵の値段は60年前より安いのだそうです。2、3日前の日本鶏卵生産者協会と日本養鶏協会が連名でだした新聞全ページの意見広告で知りました。
1ページ全面の新聞広告といえば、掲載料だけでも千万円の単位の費用がかかるのですから、鶏卵業界としてはよほど世間に言いたいことがあるに違いない、と思って広告で主張している意見なるものを読むと、生産コストの高騰や良質な衛生管理を維持しようとするために経営が立ち行かなくなって廃業に追い込まれる鶏卵生産者が続出している、なんとかこの窮状を理解して欲しいというもので、要は、卵の値段が上がっても勘弁してくださいね、と訴えるものでした。
近頃、何の断りもなく平気で値上げをする業界やサービスが多いなかで、何ともご丁寧なことです。

たしかに卵は安い。家人に聞くと1個10円ほどで、1ダース100円以下でスーパーの目玉商品の定番となっているとのことです。
60年前の大学出の初任給は1万円に充たなかったと思いますが、いまは20万円。多くの物価が60年間で10倍から20倍になっていることを考えると、たしかに卵の卸売り価格が60年前よりも安いというのはいささか異常です。
なぜこんな現象が起きるのかは経済に疎い当方としては分かりかねますが、想像するに、その昔農家の副業として放し飼いの鶏が生む卵を集めて卸すというやりかたから、工業製品みたいな徹底した管理体制での量産品に変ったからでしょう。といってももとはといえば生き物である鶏が相手ですから、コスト切り詰めにも自ずと限度があるということでしょう。

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卵といえば、かって(というのはジイジが子供の頃)は、とても高級な食品であると同時に滋養のある食べ物として貴重がられていました。
小学生時代の仲良しの家にいた女中さんは、生まれてからこのかた殆ど卵を食べたことがなかったので、卵を割るが怖くて上手く殻を割ることができないと、友だちが話していたことが思い出されます。
それほど、卵はそうそう日常庶民の口に入るものではありませんでしたし、体力回復のためにと病人に与えられるので、子供心に卵を食べる病人がうらやましく思えたものです。
もちろん昔が良かったとは決して思いません。生卵が安心して食べられ、オムレツやかに玉が一大決心しなくても食卓に上る今の方がいいに決まっています。

「私たちの仕事って時給10円にもならないわね」とバアバがよく言うのですが、モノづくりは自分自身の楽しみとはいいながら、こつこつと積み上げた手仕事の結果に「あら、高いわね」なんて言われると、機械ならぬ生身の人間の成果物も工業製品も一緒くただなと、ちょっと悲しくなるときがあります。今回の卵の意見広告を見て、鶏卵業者のみなさんがたいへんなのは分からなくもないが、鶏が可哀想だなと感じた次第です。
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by love-all-life | 2013-06-08 20:35 | 時事・社会 | Comments(0)