HAND & SOUL

2011年 01月 11日 ( 1 )

心が着くのを待つ

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次男の嫁さんのNが昨年末に星野道夫著の「旅をする木」(文春文庫)をプレゼントしてくれました。
ご存知の方も少なくないと思いますが、星野道夫さんは雄大な大地と原始の自然に魅せられて20代にアラスカに移住し、写真家として各地で活動するかたわら、読む人にこの地球にいることの幸せを感じさせてくれるたくさんの文章を残し、44才でヒグマとの遭遇事故で落命しました。
「旅する木」は星野さんの尋常でない境遇で出会う日常の出来事を、先住民や自然への限りない憧憬と温かい眼差しで描いた手紙やエッセイです。

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そのなかで、アンデス山脈へ考古学の発掘調査に出かけた探検隊の話として紹介されている1節です。

「大きなキャラバンを組んで南アメリカの山岳地帯を旅していると、ある日、荷物を担いでいたシェルパの人びとがストライキを起こします。どうしてもその場所から動こうとしないのです。困り果てた調査隊は、給料を上げるから早く出発してくれと頼みました。日当を上げろという要求だと思ったのです。が、それでも彼らは耳を貸さず、まったく動こうとしません。現地の言葉を話せる隊員が、一体どうしたのかとシェルパの代表にたずねると、彼はこう言ったというのです。
『私たちはここまで速く歩き過ぎてしまい、心を置き去りにしてきてしまった。心がこの場所につくまで、私たちはしばらくここで待っているのです』」。


わたしたちには2種類の「心」があるようです。一つは「ああしたい」「こうなりたい」「これが欲しい」といった願望や欲求で、「気持」と言ってもいいかもしれません。もう一つは「こうあるべきだ」「これは変だ」「正されねばならぬ」などの倫理観や道徳観、自己抑制といったもので、「精神」という言葉に置き換えられるものです

先のシェルパの代表が待っていたのはいうまでもなく後者の「心」です。しかし現代文明社会では前者の「心」が大手を揮って後者の「心」を圧倒しています。人びとの「気持」が大きくなればなるほど技術の力とお金の力に依存してより大きな「満足」を求めます。満足の大きさが発展の尺度となるからです。そして発展の先に環境破壊や飽食による疾病などのリスクがあることに気づいていても発展の目盛りを減じようとはしません。「気持=心」を少し抑え、「精神=心」にウエイトシフトすることが未来の幸せになる。頭で分かっていても実行に移す勇気がないのが現代人です。
ところがシェルパたちのとった態度は明らかに両方の「心」のバランス感覚から生まれていて、自然と共生するための謙虚さと英知を示しています。

正月の新聞に、ノーベル経済学賞の受賞教授がアメリカ人45万人を調査した結論としてのこんな言葉がありました。
『高い年収で満足は買えるが、幸福は買えない』。新聞記事は続けて「幸せ者とは、ちいさな喜びを十分味わえる人、ということになろうか」と。
かって学生たちに、幸福でいることの秘訣・・・「ないことを嘆くのでなく、いまもっているものを愛すること」と語った気持とぴったり重なります。小さなものから、大きな幸せがついてくる。つまりLess is moreなんですね。
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by love-all-life | 2011-01-11 08:53 | 時事・社会 | Comments(0)