HAND & SOUL

2012年 01月 07日 ( 1 )

ボクのおじさん、ベン・シャーン

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葉山の神奈川県立近代美術館で「ベン・シャーン展」を観てきました。なんだか昔ずいぶんお世話になったおじさんに再会したような気分でした。

ベン・シャーンに初めて出会ったのは芸大の学生時代です。大学に入ったものの将来どんな方向をめざすべきか、もやもやしていた時分に、アメリカの雑誌に掲載されていた彼のイラストレーションをみて大きな刺激を受けたのが最初だったと思います。そのころはまだイラストレーションという言葉はそれほど一般に使われていなくて、挿絵と言われていましたが、その絵はこちらが抱いていたいわゆる挿絵というものとは随分違っていました。絵が文章の解説や絵解きをするというのではなく、それ自身で勝手気ままに表現しているように見えますが、文章だけでもない、絵だけでもない新たなイメージの世界が生み出されるという風です。それはイラストレーションというものの本来の姿に初めて触れた瞬間であったわけです。
アメリカの「サッコ、ヴァンゼッティ事件」やフランスの「ドレフィス事件」といった冤罪事件の存在を知ったのも、社会派としての彼の作品を通じてでした。
その後レコードジャケットのデザインなどで彼の作品を目にすることがあると、その表現に魅せられてジャケット目当てでレコードを買ったりもしました。
独特にデフォルメされたフォルムや、ツヤを押さえた色彩も好きでしたが、何と言っても線の魅力のとりこになりました。なだらかな面をラインがスムースに流れるのではなく、土の道をあるときはよろめきあるときはつっかえながら歩くような、しかし進むべき道は決して外さす流れる線。それは1本の線としても魅力的ですが、集合体として交叉したり並走したりするとき一層ベン・シャーンそのものになります。

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ベン・シャーンがアメリカを代表するアーティストとしての高い地位をゆるぎないものにしたかと言えば、必ずしもそうでもないのはやや意外ですが、それはタブローを中心に展覧会を通じて評価を高めたというより、活動の場がポスターやLPジャケットやエディトリルデザインなど多様だったからかもしれません。今回の展覧会も「ベン・シャーン=クロスメディア・アーティスト」として紹介されているのもそのためでしょう。デザイナーに限りなく近いアーティストという意味で、ジャクソン・ポロックやアンディ・ウォーホールのようなアートの主流とは看做さていないのかも知れません。
日本でもベン・シャーンは画壇でというより、デザイン界でいっそう知名度も評価も高く崇拝者も多いように思います。それは商業資本の手先として大衆迎合の表現が強要されがちなデザインの世界において、人の心にある美や文化への欲求を満たすデザインがあるということを示してくれたのがベン・シャーンであり、デザインがアートの一分野であることを覚醒させてくれ、多くのデザイナーが勇気づけられたからだと思います。

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ジイジは学生時代に買った彼の画集を大切にもっていますが、いまそのページを開くと印刷されたものではないインクのシミがあちこちについています。それらはジイジがベン・シャーンの作画を追体験しようと画集を横に置いて模写したり試作をした痕跡なのです。
ジイジの大学の卒業制作は「イソップ物語り」の絵本だったのですが、いま改めて眺めてみるとベン・シャーンにずいぶんいかれていたのだぁというのがみえみえで、それについてはちょっと気恥ずかしい気持もありますが、ベン・シャーンを教材にしたことについては密かな誇りでもあるのです。その作品が結果的にその年の卒業制作に与えられる「プランタン賞」をいただいたのですから、「Thank you, uncle Ben. 」です。
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by love-all-life | 2012-01-07 17:40 | 文芸・アート | Comments(5)