HAND & SOUL

2013年 11月 04日 ( 1 )

ベートーベンと玉こんにゃく



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HAND & SOULの裏山の上にある葛原が岡神社は、鎌倉時代末期、北条執権の悪政を糾すとして後醍醐天皇をかついで倒幕を画策した日野俊基が捕えられて悲劇の最期をとげた場所として、鎌倉幕府の盛衰に縁の深い神社です。
われわれが鎌倉に住みついた50年ほど前には、日野俊基の立派なお墓があるわりにはひっそりうらぶれた境内の神社でしたが、その後一帯が源氏山公園として整備され、神社の境内の荒れた雑木林も地元の有志の手によって「こもれび広場」として憩いの場に生まれ変わりました。

この広場で11月2日、3日と「秋の文化祭」が催されました。林の中に設えられた舞台でジャズ、ヨーデル、詩吟、クラシックなどのイベントがあるということで、3日の午後の「森でベートーベンを聴く」というイベントに行ってみました。

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鳥居の脇には、この神社のちょっとした名物になりつつある、山形の農家から取り寄せた玉こんにゃくの屋台も出ています。
舞台の中央に古い(多分昭和初期の)蓄音機を一台に置き、玉こんにゃくの串をサカナにベートーベンの名曲を案内役の解説つきで聴こうという趣向です。

「お年寄りの方は知っていると思いますが、これがレコードです。SP盤といって5分くらいで裏返して聴きます。」
「一曲聴くのに何枚もかけなくてはなりません。だからこのように一冊のアルバム状になっているんです。いま新しいCDをニューアルバムなんて言いますが、それはこのアルバムが語源なんですよ。」

「レコードは手回しのゼンマイ仕掛けで盤を回転させ、鉄の針を乗せて摩擦で音を出します。針は一回一回取り替えなくてはなりません。」
「電気を使わないから、ステレオみたいに音を大きくしたり、小さくしたりできません。みなさん、できるだけ前の方に座って聴いてください。」

と、一同シーンとするなかで、ゼンマイが廻され、針が下ろされ、かすかな音でベートーベンのクロイツェル・ソナタの音が流れ出てきます。
「最初は静かにはじまりますが、もうちょっとすると音が大きくなります...」
などと、相当なクラシック・レコードマニアらしい解説者は、レコード盤と針の取り替えで途切れ途切れになる名曲にみなの関心と集中力をつなぎ止めようと必死です。
というのも、舞台の周囲にはウォーキングを楽しむ人や、子連れのファミリーのざわめき、小鳥のさえずりやときにカラス鳴き声、加えて神社がバックグラウンドとして流す雅楽の音もかすかに混じって、そのなかからベートーベンを聞き分けなくてはならないのですから聴く方もそれなりの努力がいります。
それでも聴衆は文化の日のイベントにふさわしい態度を示そうとの思いからでしょうか、解説者の努力に報いたいという温かい気持からでしょうかみな神妙にレコードに聞き入っている風です。

文化の日、口には玉こんにゃくの醤油味、耳にはベートーベンと、まことに不思議なミックス・カルチャーの体験でした。
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by love-all-life | 2013-11-04 12:22 | カマクラある記 | Comments(0)