HAND & SOUL

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さよなら、天野祐吉さん。

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天野祐吉さんが亡くなりました。突然でした。前日朝日新聞の書評欄でお目にかかったばかりだったので、それはまさに天声人語が惜しむように「きのう会った人が亡くなったような喪失感」です。

朝日新聞に足掛け29年間にわたって連載された「CMウォッチング」「CM天気図」を毎週読むのを楽しみにしていました。
昔、広告制作を生業としていた身として、近頃の広告のつまらなさを悲憤慷慨するだけの当方とは違って、天野さんは最後まで広告が好きで、広告の魅力や力を信じ、凡百のCMのなかにわずかに輝く一粒に光をあて、ほめたり嬉しがったりする姿勢に、エライなと感心するとともにご苦労なことだとも感じてきました。
天野さんの言葉は、「むずかしいことを やさしく やさしいことを おもく 重いことを おもしろく」という井上ひさしの座右の銘を地でいっているようで、それはそのまますぐれた広告コピーのようでもありました。
しかし、広告は文化であり批判精神であるとの信念を実践するがごとき洒脱な文章の対象はいつも「世の中」でした。ですから彼の「CM天気図」は「世の中天気図」だったわけで、そしてそれはいつも曇りがちでした。

そんな天野さんを、去年11月28日付けの「CM天気図」の一文を掲げて偲びたいと思います。

「近頃何がぶったまげたって、自民党などいくつかの政党が、経済成長の達成を公約にかかげているのには驚いた。いくら景気が悪いからって、そんな点数かせぎはいいかげんにしてほしい。
いま20世紀の成長至上主義の弊害が世界のあちこちに現れ、21世紀型の『脱成長社会』への転換が大きなテーマになっている時である。多くの人が言っているように、いまの成長は『人間のための成長』ではなく、『成長のための成長』になり果ててしまっているのだ。 成長に欠かせないのは国民の消費支出だが、経済をもっと成長させようと思ったら、国民にもっともっと消費させることが必要になってくる。でも、福袋しか買うものがないようなこの時代に、これ以上何を買えっていうのかね。
『地球は人類の必要を満たすには十分だが、あくどい欲望を満たすには小さすぎる』とガンジーさんは言ったが、こんな成長路線を走り続けていたら地球がぶっこわれるのは目に見えているし、『日本再生』だって危ない。
そうでなくても、成長がそのまま景気回復につながるわけじゃない。そんなまやかしより、ぼくらが政治家に聞きたいのは、明日の日本像だ。文化人類学の渡辺靖さんの言葉を借りれば、あすのぼくらが住む国の『物語』である。たとえば経済学の浜矩子さんが言うような、多様性と包容性に富んだ『老楽(おいらく)国家』も、そういう物語の一つだと言っていいだろう。
成長にこだわるから大量生産・大量消費の歯車をまわすための原発も必要になる。国民をのせるための甘い言葉より、いまみんながほしがっているのは、明日のこの国の物語を語る政治家の誠実な言葉じゃないのかな。」

合掌
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by love-all-life | 2013-10-26 11:50 | 時事・社会 | Comments(0)

HAND & SOUL「モノ」がたり 111 <バアバのカレンダー>

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ジイジの書斎の机の前の板戸に予定書き込みのカレンダーが貼ってあります。前に同じ場所にジイジがパソコンでつくったカレンダーが貼ってあったのですが、見づらい、使いづらいとクレームがつき撤去し、バアバが手描きでつくった新しいものに代えたのです。
パソコンでつくった冷たいカレンダーでは「時間」に血が通わないというのがバアバの本音のようです。ジイジにはそのことがよく分かるので素直にバアバに従いました。

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というのも、バアバこと内藤三重子は雑誌「私の部屋」と「生活の絵本」に手描きのイラスト・カレンダーを20数年掲載し続けた実績があるのです。
一人の女性の暮らしのプランでもある生活日記が、カレンダーの一こま一こまに描かれて1年365日、20数年ですから、バアバの人生にはもう一人のバアバが同居していて、二人分生きてきたようなものなのです。
かっての「私の部屋」の読者で、内藤さんのファンでしたとHAND &SOULに尋ねてこられる方が結構たくさんいます。
なかには「この子は内藤さんのカレンダーを見て育てたのですよ」とすてきなお嬢さん同伴で来られる方もいます。
バアバは、自分の子育てが必ずしも自慢できるものではなかったという思いがあるものですから、「よく、あんな勝手なことを書いたものね」とさかんに恐縮しています。
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ジイジが勤めを持っていた頃には、予定カレンダーに真っ黒に書き込みがあることが何だか自分が偉いことの証のように感じ、それが黒ければ黒いほど生きがいに感じていたようなところがありました。しかし振り返ってみて、書き込まれたもので自分の都合の決めたものは極わずかで、ほとんどは誰かが決めた用件の羅列に過ぎなかったなぁと気づきます。
それに比して、いま部屋に貼ってあるカレンダーはブランクだらけです。ほとんど真っ白に近いカレンダーを見て一抹の寂しさをまったく感じないといえばウソになりますが、いまではそれを自分が手にしている自由度の大きさとみなす心のゆとりをもつことができるようになりました。
日々の空欄を事前に決めてしまうのではなく、融通無碍でもいい、ただ一刻一刻を後で悔やむことのないよう過ごすことに集中しようと考えるようになりました。そんな我がままが許されるのも残り時間がわずかになったシニアの特権ではないかとも思うのです。

空欄だらけのバアバ作のカレンダーを見ていて、ふとバアバがイラスト・カレンダーを描いていたときの心境が分かったような気がしました。
バアバはカレンダーの上では自分が生きたいように生きていられたのだと。そしてバアバによって描きだされた、季節を愛で、住まいを飾り、クリエイティブに時間を過ごす自由闊達な暮らしは、バアバ自身が過ごしかった時間の過ごし方でもあったのだと。それはまた読者にとっても魅力的な時間の姿だったのだとも。

それにしても、現実を生きたバアバの子育てが、カレンダーの読者の子育てほど成功しなかったというのはちょっと皮肉です。
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by love-all-life | 2013-10-14 21:07 | 「モノ」がたり | Comments(2)

柔らかくて硬い、女性パワー


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安倍政権丸は、いずれ避けられない遠くの大波には知らぬ風を決めこんで、とりあえず上々の船出のように見えます。
誰に向ってか次々と矢を放っては「的中!」と威勢のよいことです。そんな矢のなかで比較的目標がはっきりしているのが「女性パワーの活用」でしょう。

国土は狭く天然資源に恵まれない日本が、厳しい国際競争を戦いぬいて行くためには「人材」こそ強力な武器であるとはくり返しいわれてきたことです。
受験競争を巧みに乗り切って、有名校(といっても国際ランクでは低い)を出た一握りの官僚や金融マン(それもほとんどは男性)に牛耳られるひ弱な日本社会からの脱皮が必要なのは誰の目にもはっきりしています。
知識・情報異存、専門性に偏った男性中心企業社会を変えて行かなければなりません。

昔、東京大学総長だった吉川弘之さんが講演で話したという忘れ難い言葉があります。
「東京大学には、鉄の専門家とか、油の専門家とか、卵の専門家とか、熱伝導の専門家、落下法則の専門家はいっぱいいるが、目玉焼きを焼くのは一般の主婦のほうがうまい。」
国運を左右する政治家や、兆円規模の予算をコントロールする経営者が、奥さんが病気になると自家の印鑑ひとつ探せなかったり、朝ご飯もろくに食べることができないといったことを笑って済ますことはできません。
身近な環境、日々の暮らし、生きがいや、明日の家族の姿を、情報や統計数字に頼らないでもちゃんと考えることができる人間が、世の中のあらゆる場で必要とされているのは明らかです。

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最近「身軽に暮らす」という本が出ました。
「もの・家・仕事・40代からの整理術」という副題がついていて、40代、50代、60代、70代の女性6人を、ライター・石川理恵さんが取材してまとめたものです。
登場する女性は、エッセイスト・吉本由美、服飾家・山中とみこ、アンチヘブリンガン店主・大久保紀一郎/大久保美津子、料理家・枝元なほみ、イラストレーター・内藤三重子、編集者・山崎陽子とそれぞれ肩書きがついていますが、みなさん一つの立場にとらわれないで、しなやかな冒険心と創造性と適応力をいかして、自分らしい人生の楽しみ方や暮らしの工夫について率直に語っています。
子育てが終わったら老後という時代ではなくなった現代、成熟した女性としての長い時間をいかに自分らしく創造していくかのヒントが、6人6様に語られていて好評らしく、すでに4版を重ねています。
お気づきのように、6人のなかにバアバこと内藤三重子が取材されていて、彼女の若かった頃のイラストレーターとしての仕事や、雑誌「私の部屋」での関わり、その後のモノづくり、HAND & SOULのこと、ヒナづくりへの変化が実は何の変化でもなく、料理する自分、洗濯する自分、旅行する自分が同じであるように、ひとりの人間の表し方に過ぎないことがわかります。本人は「丸裸にされたみたい」とテレていますが、自己一貫性と環境への柔軟性は他の女性たちにも共通しているように感じられます。

「柔らかくて硬い女性パワー」よ、日本を救って。
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by love-all-life | 2013-10-05 18:18 | 時事・社会 | Comments(0)