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HAND & SOUL

魔法のフライパン

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今朝の新聞のコラム「ひと」は興味深い記事でした(朝日新聞4月22日)。「極薄の『魔法のフライパン』で世界デビューする鋳造会社長」錦見泰郎さん(51)です。

三重県木曽岬町の従業員二人の鋳物会社を経営する錦見さんは、バブル崩壊時に大変な苦戦をするなか、「3分の1の価格競争で戦うか、3倍の困難な技術で戦うか」という新聞で見た記事に奮起して、9年研究を重ね、厚さ4〜5ミリが常識とされる鋳物で1.5ミリの「魔法のフライパン」を開発しました。
熱伝導に優れ、焼きムラができない画期性で、有名レストランのシェフから「鉄板、フッ素樹脂に続く第三のフライパン」と絶賛され注文が殺到し、納品まで3年待ちの人気商品になったとの記事です。

おや?と感じたのは、フライパンは肉厚のものがよいとされていたのでなかったかと思ったからです。
というのも65年ほど時代が遡りますが、太平洋戦争終戦後あらゆる物資に不足するなか、ときどきアメリカに移住した母の遠縁からありがたい救援物資が届くことがありました。段ボールの箱を開けるとなかから独特の甘い香りが部屋に広がり、キャンデーや厚手のブリキのオモチャなどが出てくるのです。それらはいずれも当時国内では到底入手できないものばかりでした。無論送られてくるのは子ども向けのものだけでなく、衣類や生活用品などもあります。そんななかに黒々と分厚い鋳物のフライパンがありました。大小あり、大きいものは子どもでは持てないほどの重さがあります。母はそのフライパンをとても自慢にし大事に使っていました。それは母からバアバに引き継がれ、今は次男の家で使っています。

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そんなフライパンをずーっと脇からみてきたジイジは、フライパンといえばなんとなく分厚いものがよいものという既成概念をもってしまったようです。フライパンを自分の道具として使ったことのないジイジには、よいフライパンがどのようなものか評価することはできませんが、その重い鋳物のフライパンは置いてあっても使っていてもどっしりとした貫禄があって、それがあるだけで「私にまかせればすべてうまくいくよ」と約束してくれているような存在感があるのです。

ところが新聞記事によると、薄さこそがよいフライパンの極意だということなのです。
時代が変わると人の求める料理が変るのか、シェフの調理法が変ったのか、本当は薄いものがよいのにいままで技術的にできなかっただけなのか、単に新しいからもてはやされているのかそれは分かりません。多分、厚いもの薄いものそれぞれの持ち味があって、使い手の使い分けこそが料理の極意に繋がるということなのでしょう。もっともあんな重いフライパンでは忙しいシェフの俊敏な手さばきにはなじまないだろうなという気はします。

それにしても「3分の1の価格競争で戦うか、3倍の困難な技術で戦うか」という言葉は言い得て妙です。この言葉に敏感に反応しただけでなく3倍の困難に挑戦し、「努力は人を裏切らない」を実践した錦見さんは賞賛に値します。
中小企業が生き残るには「3倍の強みが必要、2倍では追いつかれてしまう。」と錦見さんは言います、努力を続ける原動力は「好き」という気持だとも。
錦見さんをかくも努力にかりたてた薄いフライパンは彼とってまさに「魔法のフライパン」だったわけです。



錦見さん写真:朝日新聞
by love-all-life | 2012-04-22 16:50 | 時事・社会