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HAND & SOUL

「ありがとう、スタルク。」

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鎌倉に住んで50年、といっても30年は東京に勤め先をもつ言うところの鎌倉都民、15年は長岡市民だったということで、市県民税・固定資産税の高さに市民意識が呼び起こされることはあっても、いまだに道で観光客に鎌倉のお寺の宗派を訊かれてもモゾモゾと口ごもる始末です。
やっとこの数年、町内会に顔を出したり、朝のラジオ体操のお仲間ができたりすると、今度は老朽化した建造物の保存活動や、ピースパレードの参加にお声がかかるようになって、横断幕を掲げて市内をねり歩いたりして、鎌倉市民らしい振る舞いがめっきり増えました。

そんなとき地域貢献の絶好の機会が到来しました。市内の小学生にデザインについて話してみないかというお誘いです。
これはNPO法人「子ども大学かまくら」という小学校高学年を対象とした学校外授業で、子供たちにより多面的に考え、応用し、判断する力を涵養しようという試みで、市内の大学教授や専門家がボランティアで授業を行うもので、5年前にスタートしました。学長は養老孟司さんです。
毎年応募者から200名を受け入れ、授業やゼミ実習、体験学習などを行います。当方に与えられたのは「デザイナーになってみよう」という20人の実習ゼミで2時間づつ、3回授業です。

7年ぶりの授業ということで、いささか緊張しながらも張り切って準備をはじめたのはよかったのですが、これがなかなか難物でした。
こちらが伝えたい内容は簡単に決められるのですが、問題は相手が小学生だということです。例えば「デザインは美しさと機能を考えます」と言おうとする時、機能の文字にはフリガナが必要だろうか、そもそも「きのう」という言葉の意味が通ずるだろうか?ではなんと説明する?というような疑問が後から後から出てくるのです。
計画、図案、芸術、情報、環境、快い、感動、新鮮、好奇心、工夫、目的・・・、このような言葉を何気なく使ってしまってよいのだろうか、でないとしたらどう説明するか、でもひとつひとつ説明していたら果たして時間が足りるだろうか、足りるとして、でも子どもたちは退屈するだろうな。こんなことを考えていると暗澹としてくるのです。
改めて小学校の先生というのはたいへんな仕事なのだなあという実感を得るとともに、小学校の先生には教員資格が求められ、大学教授には求められないことが理解できたのでした。

さて、そんな疑念の晴れないままの授業でしたが、子供たちの満足度は未知ですが、こちらの疲れは大学生を相手とするよりはるかに大きかったことだけは確かです。
話の中で一カ所とても盛り上がったことがありました。それは「よいデザインとは何か」という話で、例を示すスライドを見せるほかに、家にあったフィリップ・スタルクのレモン絞り器を持参し子どもたちに示して「これが、先生の大好きなグッドデザインです!」と言ったときです。彼らの目は一斉に輝き、驚き、コメントが相次いだのです。「どうやって使うの?」「どこで売ってるの?」「使いたい!」「飲みたい!」。
お陰で次回の授業では皆にレモンジュースを1杯づつサービスするハメになりそうです。










by love-all-life | 2015-10-25 22:00 | 文芸・アート