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HAND & SOUL

今年は傘が要りそう


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もう昨年になってしまいましたが、ついこの間近所の図書館で特別な思いがあったわけでもなく借出した本に、こんな一節がありました。

「ソロモンは賢者だったと思いますか」。
「怪しいですね。ホロヴィッツさん。しかし老いた者のみが賢者たりえます。これは老人が必ずしも賢者であるということではありませんよ。じっさい若いときに愚かな人間は年取ってもやはり愚かなままです」。
ホロヴィッツが付け加えた。「そして若いころよりももっと馬鹿面で醜くなる」。
「そうとは限りませんよ、マエストロ。トスカニーニ、カザルス、ミロ、ピカソ、ブラック、コクトー、その他多くの芸術家たちは老いたときにいい顔をしていましたよ」。
「そうです、それはまだ彼らが懸命に仕事をしていたからです」とホロヴィッツが答えた。

ホロヴィッツさんとは、言うまでもなくあの稀代のピアニストのことであり、彼に密着取材した音楽評論家デヴィッド・デュバルの著書「ホロヴィッツの夕べ」を読んでいて出会ったやり取りです。
こちらが物心ついてからずーっと老人であったという印象のホロヴィッツ。その彼が「老い」についてどのような考えをもっていたかを知るのは興味深いことです。

80歳で生きるレジェンドとして初来日し、待ちに待った日本のクラシック・ファンの耳に届いた彼の演奏を「ヒビの入った骨董品」と評され、そのことをすごく気にして3年後再来日し、その汚名を注いだ根性の仕事師ならではの言葉です。

長年の懸命なパフォーマンスの積み重ねこそが人を賢者たらしめ、いい顔の老人をつくる。
今年の年初の言葉として、実現は難しそうだけど覚えておこう。
by love-all-life | 2016-01-03 20:16 | 文芸・アート