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HAND & SOUL

舌を刺す

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「舌を刺す」という言葉を知ってる?と家人に聞いたら誰も知りません。
ではとパソコンの国語辞典に聞いても「国語辞書に一致する情報は見つかりません」と相手にしてくれません。
「えッ、そんな馬鹿な・・・腐敗しそうな食べものを口に入れたときにピリっと舌にくる、あの感触だよ」と
言ってみたものの、そもそも近頃では腐敗しそうな食べ物を口にすることなどないのだと気づきました。

そう「舌を刺す」という言葉は少年時代の戦後の食料不足の思い出と直結します。
美味しいもの、新鮮なものなどと贅沢は言っていられません。「食べられれば食べる」というのがあたりまえのことでした。冷凍庫も冷蔵庫もなし、まして賞味期限などいう言葉なんてだれも知りませんでした。
魚はその日その日に魚屋の店頭でハエを追い払いながら買って来たものを晩に食べるのが当たり前のことで、当然日を越すと腐敗が始まります。それでも残った食料を捨てるということは極力しないで食べます。そんなとき母親が「舌を刺したらやめなさい」と言うのです。
だから子どもにとって「舌を刺す」は、自らが下痢や腸チフスのリスクから逃れるための大切なサインであったわけで忘れようもありません。
ちなみにジイジより二つ年長のバアバに聞いたら「知ってるわよ」と、なんでそんなこと聞くのと怪訝な面持ちです。

相変わらずの昔話をもち出したのは、このところの廃棄食品問題のニュースを見聞きする度に、おだやかな気分でいられないからなのです。
廃棄物処理業者が廃品として受け取ったものを食品と偽って流通するのは廃棄物処理法に反するというのです。
それはそうだが、その後の議論がともすると食品安全管理の見地から、このような手口が起らないようにするには、といった方向に動いていくのをみてちょっと違うんじゃないの?と言わざるを得ません。

このような事件を誘発する原因は、かくも大量の食品が廃品業者に流れることだが、何と言ってもその根幹はあまりにも多くの食べ物を捨てるという世の中のあり方が問題なのではないか。
国内で出る食品の産廃は年間250万トンにも及ぶと聞いてもそのスケールの大きさにはいまいちピンときませんが、その一因とされる食品業界の「3分の1ルール」というのを知ると驚きです。
製造から賞味期限までの3分の1を過ぎた商品は小売店へ納品できず、小売店は3分の2を経過した時点で店頭から下げるという商習慣が存在するのです。
賞味期限というのは、知ってのように美味しく食べられる期間という意味で、その食品が食べられなくなる期限ではありません。つまり日本では食べ物は美味しいうちに捨てるというのが食品業界の暗黙のルールだというのです。
捨てられたものを食品と偽って売るのもいけないが、食べ物は美味しいうちに捨てなければいけないというのも、同じように良くないことではないか。
ただ、廃品業者の方は法律に違反するので対処は比較的簡単ですが、一方賞味期限は食の安全、消費者の健康のためといった大義名分があるので簡単に悪者にしてしまうにはためらいます。

それにつけても、飢えた幼児がティシュを口にする母子家庭の話、食費に事欠いて1日2食で我慢する多くの非正規雇用サラリーマン・・・・、王侯貴族の食卓と敗戦直後の貧困が同居するこの不条理な社会を生み出したのは誰か?
その責任は国民みんなでシェアすべきものですが、その先頭にいるのが金、金、金のシュプレヒコールのもと、アベノミックスとやらの錦の御旗を振りかざす品のない為政者だとなると、つい「舌を刺す」感覚が蘇ってきてしまうのです。
by love-all-life | 2016-01-27 00:15 | 時事・社会