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HAND & SOUL

「知識」の使い捨て時代

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古本屋の店頭の平台には、少々手あかのついた文庫本や、時代遅れになった実用本や、長編小説の一編だけといった類いの本が身を寄せ合ってそれぞれの生涯の最後の姿を晒しています。
ときにはそんな中にこちらの好みの作家の小説や、めずらしいノンフィクションものが混じっていたりしていることもあり、そんな時には100円ショップで「エッ、こんなものが100円で!」と感動する時のような驚きがあって、なんとなく気になる場所ではあります。

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先日もふらっと立ち寄った古書店の平台に、他の本を圧倒するような立派な洋書がデンと置いてありました。この本どこかで見たことがあるなと手に取ってみると、かって所属していた大学の図書館の蔵書に同じものがあったことに気づきました。
それは「ULTIMATE VISUAL DICTIONARY」という本で、大型で幼児では持ち上げられないくらい重く、660ページもあって、全ページが種々の絵や写真とそれらを説明する短い文で埋め尽くされていいます。つまりこれは文字でひいて単語の意味を調べる辞書ではなく、目で見て調べる辞典なのです。
文章が英文だという不便さはありますが、「あれ、どんな姿をしていたっけ?」とか「これって,何?」というようなときや、実物を見ないで絵を描くときなどに恰好な資料となる手引書です。
内容には、宇宙・地球・天体・植物・動物・人体・地質・気象・物理・化学・鉄道・道路・海・大気・美術・建築・音楽・現代世界などの項目がずらりと並んでいます。
ひとつひとつの絵や写真の質も高く、レイアウトもスマートで、とくに目的がなくてもパラパラページをめくっているだけで、なんだか物知りになったような気分になれるし、子どもなどに現物を前にしないで物事の説明をするときなど重宝するだろうと思われます。
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今回この本をブログでとりあげようと思ったのは、実はこの本の中身ではなく、お値段がなんと108円だったからなのです。
調べてみると初版が1994年で、本国アメリカで40$、カナダで60$で出版されたことが分かります。買った本のブックカバーには日焼けして茶色くなったシールに¥3,306 とタイプされいて、別の場所に¥108の小さな新しいシールが貼ってあります。つまり日本で当初3,306 円で売られていた本が十数年経って、古書業者がただ同然に仕入れ、いま¥108というほとんど無価値の烙印を押されて店頭に並んでいるということなのです。
何でこんなことが起るのだろうかという疑問への答えは、言わずとインターネットやWikipediaの存在であることは明白です。

いまや、あらゆる「知識」は、まるでアラジンの魔法のランプのようにスマホを操る指先から寸時に現れてくるのです。
かってのように図書館に行く、本をめくる、資料を漁る、自ら訪ねる、恥をかきながら人に尋ねるといった手順は一切不要の世の中になってしまったのです。いや,そのような錯覚が錯覚とも自覚しないで済むご時世のようです。
大学、高校生の孫を身近でみていて、彼らは「知らない」とこに劣等感をもつこともないし、「知らない」うことを自覚しさえしない世代だということを感じます。会話をしていて、何か分からないコトがあると、瞬時にスマホをとりだし、瞬時に答えを明らかなにして会話は続きます。
ほとんど老年期に達してパソコンを手にしたジイジ世代にとって、そういう情景は「おまえ、それって知っているんじゃなくて、ほとんどカンニングじゃないか」感じてしまいます。キイを押せばお金が出て来るATMでさえ苦労して貯めた預金が必要ではないか。こんな知識のただ乗りのようなことが許されてよいのかと当惑するばかりです。

スマホに触れる指先で森羅万象を操れるような気分でいる若者たちへのぐだぐだしたお説教は彼らから相手にされそうもないのでこれくらいにして、いまだスマホをもたない当方としては、せめて路上で寂げな姿を晒してる老学者のような古本を見て哀れを感じ、求めて家の本棚に安住の場をつくってやることにしました。


*上の写真のブックエンドはHAND & SOULオリジナルの「PUSH MANブックエンド」 1対で¥5,000
by love-all-life | 2016-05-28 18:00